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【対談】キプリス製品こそしっかりケアして長く使ってほしい〜R&D 静 邦彦氏 × フリーエディター津田 昌宏氏
更新日時:2018/08/31
発売後、ユーザーからも業界からもご好評いただいているCYPRIS×M.MOWBRAYケアクリームは、レザーケア用品を展開するR&D社のM.MOWBRAYとのダブルネーム商品。キプリス製品に使われている革と、R&D社が手がけている100以上のケア用品を一つ一つテイスティング(革とケア用品の相性テスト)をして、2年以上かけて選んだものになります。
このテイスティングの指揮を執り、今回のダブルネーム商品のキーマンとなったR&D常務取締役・静 邦彦氏と、革小物やバッグに詳しいフリーエディターの津田昌宏氏の対談が実現。キプリスとのダブルネーム商品について、またレザーケアに対する想いなどをお二人に語っていただきました。
プロフィール
株式会社R&D 常務取締役
静 邦彦氏
レザーケアブランド「M.MOWBRAY(エム・モゥブレィ)」を始め、国内外の皮革ケア関連用品を取り扱うR&D社の常務取締役を務める。レザーケアに関する卓越した専門知識を持つプロフェッショナルとして、革製品販売への様々なサポートを手掛けている。
フリーエディター
津田昌宏氏
ファッション誌やモノ情報誌などの編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター・ライターとして数々のメディアに寄稿。なかでも鞄や革小物の記事を担当することが多い。
レザーケアを推奨していたモルフォとの出会い
津田昌宏氏(以下、津田):今回のダブルネーム商品を発売するに至った経緯について教えてください。
静 邦彦氏(以下、静):キプリスを展開するモルフォさんとの出会いは10年以上前のこと。同じ革を扱うものとして、売り場などで多くのレザーブランドの方々と知り合う機会があるんです。なかでもモルフォさんは、「レザー製品はお手入れしてください」というメッセージを発信されていて、これはレザー製品を取り扱っている方たちの中では、おそらく最初じゃないでしょうか。「我々レザーケア用品メーカーと同じ志を持っている!」と、そこからお付き合いが始まりました。
津田:そこから今回のケアクリームを発売することになったんですね。
静:実際にプロジェクトが動き出したのは2年ほど前からです。それまでも双方でレザーケアはおすすめしていたのですが、近年問い合わせも増えたことから必要性を強く感じてプロジェクトを始動しました。約2年かけてテイスティングを行い、キプリスの革製品にベストマッチな3商品を発売するに至りました。
津田:100種類以上のケア用品をテイスティングしたと伺いましたが、特に苦労した点などはありましたか?
静:例えば同じ革でも、色によって使えるクリームが全然違うんです。おすすめしたいと思ってテイスティングを繰り返していたものが、茶色はいいけどグリーンだと少し色落ちするといったことがありました。
津田:革も色も全種類をテイスティングされたのですか!?
静:もちろんです。今回のコンセプトが“ベストマッチ”なので、一つ一つすべて表から裏までテストしました。同じ革でもレザーサンプルと実際の製品も若干異なるので、ベストに近づけるため、そこで検討し直すこともありました。
津田:それだけベストマッチは難しかったと思うんですけど、それでもしっかり3つに絞り切れたのはすごいですね。
静:本音を言うと、本当はもっと複数あってもいいかなと思っているんですよ。でも逆に言えば、突き詰めていくとベストマッチは3つしかなかったんです。テイスティングをわかりやすく説明すると、一つの革に対してある程度の目星をつけたクリームを比較していき、予選〜準決勝〜決勝と比べていって、結果的にこの3つになったというわけです。
津田:なるほど。勝ち残ったのがこの3つなんですね。
静:この3つでいこうではなく、この3つしかないという感じですね。それでも一つのレザーブランドから、ケアクリームが3種類も発売されるというのは聞いたことがありません。それだけモルフォさんが、お手入れして長く使ってほしいとの想いが強い証拠です。
津田:言い方は難しいですが、ダブルネーム商品はパッケージだけ変更しても成立するじゃないですか。でも今回の商品は、すべてテイスティングを行い、キプリスの革製品にベストマッチしたケアクリームだから、本当の意味でM.モゥブレィとコラボレーションしていると言えますよね。
ユーザーが選びやすいところもポイント
津田:ユーザー目線からすると、僕は「この革製品にはこのクリーム!」と明確なところがいいなぁと思っています。ケア用品はどれを選べばいいのかわからないことが多いので、迷うことなく安心して選べるのは嬉しいですね。
静:そもそも今回のプロジェクトは、改めて「キプリスはお手入れをしながら使ってもらうブランドにしたい」という想いがきっかけ。そうなると、やはりケア用品が必要になります。イメージで言うと、財布を購入される方に、お会計の時に一緒にケアクリームも買っていただくことが理想です。しかし、その説明が販売員の方も難しいところがありました。
津田:このクリームなら対応する革が明確なので、売り場にとってもおすすめしやすいんですね。
静:靴売り場だと、気の利いた販売員の方であれば、買われた靴に対してメンテナンス方法を教えたり、靴の傷が気になるからお店に訪れたお客様に靴墨をすすめたりといった会話があるんですよ。不思議なことにユーザーの方も、靴だとお手入れしなきゃ、磨かなきゃという感覚がどこかにあるんですね。以前から靴磨きという文化が日本にはあるので、靴はお手入れするものと認識されている。でも財布はそのまま。これが残念でなりません。私たちからすると、靴も財布も同じ革製品にしか見えないので、どちらも必ずお手入れしてほしいんですよ。
津田:靴売り場と同じように、今後は財布売り場でもそういった会話が聞こえるといいですね。
静:実は当社のスタッフと、モルフォさんの全スタッフによる勉強会も繰り返し行っているんですよ。企業同士のプロジェクト商品ということで、売り場のスタッフだけでなく全社員が情報を共有し、レザーケアに対する知識を身につける取り組みをしています。
手間要らずの“ビフォアケア”が革を長持ちさせる秘訣
津田:そこで推奨しているのが、“ビフォアケア”なんですね。この言葉自体、初めて聞きました。
静:もちろんアフターケアも大事なんですよ。でも革が傷ついてからではメンテナンスに限界があるので、製品購入と同時にお手入れもスタートするビフォアケアが重要。あとで慌てるより、ダメージを未然に防いだほうが安心して長く使えますよね。新品の財布でも、製造から販売、購入に至るまでにどうしても期間が空くので、見た目はキレイでも革のコンディションとしては乾燥しているから、購入後すぐに保湿する必要があるんです。
津田:買ったばかりの財布の革が乾燥しているなんて考えたこともありませんでした。新品の財布は作りたてだと勝手に思っていました(笑)。確かに店頭在庫でどれくらい眠っていたかはわからないですね。
静:そうなんですよ。だからこそ、使う前にクリームでまず保湿してあげることが大事なんです。手にハンドクリームを塗るのと同じで、カサカサの状態だとトラブルが起きやすいので、しっかり潤いを与えて、コンディションの良い状態から使い始めることでダメージを抑えられます。
津田:靴磨きと違って手軽なところがいいですよね。革全体にムラなくクリームを塗って、から拭きするだけ。僕は結構ズボラな性格なので、今までレザーのお手入れはやっていませんでした。特にレザーケアといえば靴のイメージが強いじゃないですか。靴磨きってすごく面倒で、手順も難しいというイメージがあって。
静:シューケアは手が汚れるし時間もかかるし。靴磨きって言葉が根付いていているから、ツヤが出るまでやらないといけない面倒なイメージがありますよね。でも僕らがやっているのは、磨きじゃなくてケア。そこをしっかり伝えたいと思っています。ケアなんだからズボラでもいいじゃないですか。スキンケアもやらないよりはやった方がいい、それくらいの感覚でレザーケアもしてほしいですね。
津田:ズボラな僕でも、冬はハンドクリームを塗りますからね(笑)。別にツヤを出してキレイにするわけじゃなく、カサカサだから塗るだけと思えば、レザーのお手入れも気がラクです。これならビフォアケアもできそうですね。
静:ビフォアケアをすることによって革が強くなるので、革製品をより長く使うことができますよ。
クオリティの高いキプリス製品こそしっかりケアしてほしい
津田:例えばなんですけど、革の品質によってケアクリームのノリが良い悪いなどもあるんですか?
静:とても難しい質問ですね。そもそも革は良い悪いではなく、本来お手入れをしながら長く使えるものという認識が私たちの中にはありますから。しかし私たちケア用品メーカーの目線で言えば、お手入れができる革が一番良いですね。まずお手入れができるということは、長く使えることに繋がりますから。また、そういった革はお手入れしながら使うことでツヤが出てきます。例えばヌメ革はどんどん飴色になりますよね。その変化が楽しめると同時に、革はどんどん強くなっているんです。
津田:エイジングすることで革は強くなるんですね。てっきり弱くなっているとばかり思っていました。
静:経年変化でツヤが出てきた革は、クリームのノリもいいですよ。そういう意味では、キプリスの革製品は良い革を使っていると言い切れます。革だけでなくパーツ一つ一つにもこだわっているのがわかりますし、何より作りがものすごく丁寧。日本の職人さん達の高い技術で、こだわって作っていることがよくわかります。
津田:ステッチ一つ見てもキレイですよね。きっと購入する人も、クオリティの高さからキプリスを選んでいるんだと思いますよ。キプリスのユーザーは目が肥えている人が多い印象を受けますから。ただ日本製というだけでなく、本当に作りが良いことは商品やホームページを見れば一目瞭然です。
静:そうなんです。お客様も長く使えるというメリットで購入された方がたくさんいるはずです。話は最初に戻りますが、キプリスも長く使ってほしいという想いで高品質なレザーアイテムを手がけていますから。しかし多くの方がお手入れまで考えていないんです。
津田:キプリスだから、良いものだから、長く使えると思っているということですね。僕もちょっと耳が痛い話ですが。本当に長く使うためには、ビフォアケアから取り組むことが必要不可欠だと。
静:普通に使っているぶんには、数年経ってもファスナーが壊れることも糸がほつれるようなこともないと思うんです。それくらい素晴らしい製品だからこそ、ご自身で最低限のレザーケアはしてほしい。お手入れをしていただくことによって初めて、ものづくりの世界とケアの世界が一緒になって、革製品のエイジングを楽しむことができるんです。もともとそれを目指しているブランドが、キプリスですから。
CYPRIS×M.MOWBRAYのケア用品
CYPRIS×M.MOWBRAY『コードバンクリーム レノベーター』
取材協力 株式会社R&D http://www.randd.co.jp/
Photo Hirotake Harata
Text Masahiro Tsuda
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