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Voice vol.10 | 長坂 真護さん
更新日時:2022/09/27
2022.9.27 Interview
ガーナのスラム街で山積みにされた、大量の“ゴミ”。
それは先進諸国が豊かであるために、後進国に押しつけた電子機器の廃棄物でした。
MAGOさんはそんな廃棄物をアートへと昇華し、現地の支援や問題の解決に貢献しています。
なぜ、“ゴミ”に注目されたのでしょうか。
また、モノの価値とはどこにあるのでしょうか。
たくさんの廃棄物を目の当たりにし、本質的な問題と直面してきたMAGOさんに伺いました。
美術家長坂 真護さん
強い憤りと絶望が『電子機器の墓場』を訪れる原動力に
取材に伺ったのは、2019年から拠点にしているという日本橋の広大なアトリエ。
製作途中のアート作品とガーナから輸入された“ゴミ”が混然とひしめき合うなか、長坂真護さん
MAGOさんが迎え入れてくれました。
にこやかな表情を見せる一方、時折制作物に注がれる視線には冷厳とした感情が宿っていたのが印象的でした。
“ゴミ”を用いたMAGOさんのアートはどれも独創的で、現代に生きる私たちに強いメッセージ性をもたらすものばかりです。そもそも、どのような経緯でガーナのスラム街に行かれることになったのでしょうか?
「僕は若い頃に新宿・歌舞伎町のホストとして成功を収め、稼いだお金を元手に23歳でアパレル事業を起こしましたが、1年ほどで潰れてしまいました。『人生の底に落ちた』と思い詰めるほどの挫折でしたね。それでも、もう一度自分の夢に向かってチャレンジしようと奮起し、幼い頃から好きだった絵描きの道に進もうと決意したんです。世界のアートに触れたくて15カ国以上を回り、路上で絵を描く日々を過ごすようになりました。そうしたとき『ガーナに電子機器の墓場がある』と知り、ものすごく強い関心が湧いてきたのです」
それはなぜでしょう?
「2015年11月13日にパリ同時多発テロ事件が発生したとき、僕も現地にいまして、大きな衝撃を受けました。『アートを生んでもテロの前には無力だ』と。自分への無力さを痛感すると同時に、世の中に存在する理不尽さに対して憤りや絶望も覚えるようになり、それがガーナへ足を運ばせる原動力になったのだと思います。実際、ガーナのスラム街・アグボグブロシーで見たゴミの山は、一度見たら忘れられないような劣悪な環境でした。有害物質が流れ出た電子機器と一般ゴミが混ぜ合わさった一体からは、人体に有害なガスや腐敗臭、樹脂が焼けたような匂いが立ち込め、ものすごい数のハエも飛び交っている。それなのに、現地の人々は資源として換金できるわずかな素材を求め、有毒ガスに侵されながらゴミの山を漁っているんです。『僕らがありがたがっていた資本主義の裏側を見てしまった』という想いがしました」
それから、どのような行動に?
「最初は、そこで自分が何をできるかわかりませんでした。ただ、『日本人に生まれてよかった』といって目を背けるか、彼らを助けるか、その2択だと考えたときに、僕は後者を選びたいと思ったのです。その街で黄色人種の僕は異質な存在で、最初はお金をせびられもしましたけど、『あなたたちのことを知りたい』と熱心に働きかけるうちに打ち解けることができました。どれほど言葉を紡ぐよりも実際の行動が大切で、活動を通じて1000個以上のガスマスクを届けたり、現地に初となる私立学校『MAGO ART AND STUDY』を設立したりするたびに、彼らとの関係性は深まっていきました。当然僕はガーナと縁もゆかりもなく、彼らと積極的にかかわる理由や意義はなかったのかもしれませんが、『地球人』としてみれば同じ仲間。『助ける』というのはおこがましいですが、世界を旅するなかで憤りや絶望を味わううち、どうしてもあきらめきれなかったのです」
アートで社会を塗り替える「サステナブル・キャピタリズム」
現在は年間600点のペースで作品を生み出すべく、
遊びや飲酒を断ち、毎日8時間以上筆を握っているというMAGOさん。
作品を見据える瞳には、どこか求道者のような熱意が込められていました。
“ゴミ”を用いたアートを生み出し、その利益を現地の環境改善につなげる「サステナブル・キャピタリズム」を提唱されていますが、アート活動とサステナブルを結びつける考えはとても新鮮に映ります。
「世界を旅し、先見的な人々と出会ってきたことで『サステナブル』のスタイルをわりと早いうちから理解していました。それで、ガーナを訪れる前から『絵を描きながら地球をきれいにする方法はないか』と漠然と考えていたんです。そうした活動がIT革命の次にくると確信してたんです。ただ、ゴミをアートにするという活動も、最初からうまくいく算段があったわけではありません。むしろ自信はなく……貯金を切り崩しながら、ほそぼそと作品を作っていたのです。転機となったのは、活動を始めてから9カ月後。つてを頼り、銀座で1日3時間だけ展示会を開催したところ、作品のひとつが1500万円で売れたんです。『まさか』という驚きと、『偶然かも』という不安もよぎりながらさらに活動を続けると、次々と『購入したい』という人が現れまして。2021年には年間で8億円ほどの売上が出るようになり、『たまたまじゃなかったんだ』と安心できるようになりました」
その売上をもって、スラム街の環境や人々の生活改善に当てられているのですね。やはり購入者も、そうしたサステナブルな活動を支援されていらっしゃるのでしょうか。
「そうだと思います。それに、いわゆるアートコレクターや投資家、経営者から、若い子まで、客層がとても幅広いことも特徴だと思います。この間は、19歳の女の子が3年間バイトしたというお金で買ってくれまして、感激しました」
サステナブルな活動もすばらしいですが、アート作品そのものとしても、とても意義深く魅力的です。
「溶けかかった電子機器を集めてリアルな様子を演出したり、丸や四角などのシルエットを用いて人物を表現したり、“ゴミ”の特徴を活かすようにしています。一言で“ゴミ”といっても、もともとは一流のインダストリアルデザイナーが手掛けた優秀なデザインばかり。そうした“エネルギー”のかけらを集め、ある種のカオスを宿したまま、アートに転化しているんです」
社会貢献意識の高い製品を手に取る時代に
もともと、モノに固執する性格ではないというMAGOさん。
いわゆる“高級ブランド”には興味がそそられず、
自分が納得する製品だけを身に着けていると言います。
ガーナで大量の“ゴミ”を目の当たりにされているMAGOさんにとって、今の資本主義社会や日本人の暮らしぶりをどのように思いますか?
「サステナブルな意識が高まってきているのは、とてもよい傾向だと思います。ただ、だからといって『ペットボトルを一切使うな』『大量のエネルギーを使う飛行機に乗るな』というわけにもいきません。大切なのは、みんなが気づきを得て、協力し合いながら少しずつ前進すること。使い捨てで安い1000円の製品より、1500円だけどサステナブルな製品のほうを買いたいという人が大勢になれば、社会も変わっていくはずです。僕も、生分解性素材でできたシューズなど、社会貢献意識の高いメーカーやブランドが手掛けた製品を選んでいます」
MAGOさんがお使いいただいているキプリスの「フィンランドエルク モバイルウォレット」でも、裏地に再生ペットボトルを使った繊維が使われています。そうした点を気に入られたのでしょうか。
「そうですね。小さな部分でも、環境負荷低減に取り組む姿勢はとても大切だと思います。それに革そのものも、副産物を有効活用しようというサステナブル素材の代表格。このエルクの革はしっとりとした手触りが心地良いし、深みのあるグリーンカラーもすごく好みです。また、『オイルシェルコードバン&ヴァケッタレザー スマートフォンケース』も愛用しているのですが、こちらのレザーは使うほどに味わいが深まって、愛着がわいてきます。どちらもデザインがシンプルですし、国内生産で品質が高いのも魅力的。使うシーンと問わずに長く使えるというのはサステナブルな考えの原点でもありますから、こういうキプリスの精神は、僕にすごく合っていると感じています」
最後に、今後の展望をお聞かせください。
「2030年までに資金を集め、ガーナに100億円規模のリサイクル工場を設立し、1万人の雇用を創出することが大きな目標です。アグボグブロシーには3万人が住んでいるといわれており、1万人を雇用できればスラムをなくせる可能性が高まるんです。事業として検討しているのは、リサイクル工場のほかに農業とEVバイクの製造。今は現地に10人規模の会社を興しているのですが、まずは3年以内に100人を雇用して……と、協力してくれる仲間とともにプロジェクトを推進していきたいと考えています。まずは、今年の9月から11月まで上野の森美術館での個展が開催されますので、そこに向かって全力を注いでいます」
長坂 真護 Nagasaka Mago
美術家。1984年生まれ。2017年6月、ガーナのスラム街・アグボグブロシーを訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。
以降、廃棄物で作品を制作し、その売上から生まれた資金でこれまでに1,000個以上のガスマスクをガーナに届け、スラム街に初の私立学校や美術館を設立した。サステナブル・キャピタリズムを提唱し抜本的な問題解決に向け、現地にリサイクル工場建設を進めるほか、環境を汚染しない農業やEVなどの事業を展開し、スラム街をサステナブルタウンへ変貌させるため、日々精力的に活動を続けている。
Text : Hiroyuki Yokoyama
Edit : FIRST
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