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VOICE vol.5 | 江澤佐知子さん
更新日時:2021/09/14
2021.9.14 Interview
産婦人科医でありながら、2009年に行われた宇宙航空研究開発機構 (JAXA)
宇宙飛行士選抜試験における女性唯一のファイナリストであり、数多くの会社やNPO法人を立ち上げた実業家。
早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程の研究者、TBS番組審議会審議委員、二児の母。
いくつものフィールドで活躍しているのが、江澤佐知子さんです。
産婦人科医/医学博士/社会起業家/法学博士課程(医事法)江澤佐知子さん
華々しい成果を上げながらも、常に新しいことへと挑戦し続ける原動力 はどこからくるのでしょうか。
宇宙飛行士選抜試験で体験した実話をもとに、江澤さんが心に抱く信念について話を伺いました。
宇宙飛行士選抜試験──真摯に向き合えば、自ずと道は拓ける
2009年、JAXAが10年ぶりに実施した宇宙飛行士の選抜試験。
963人もの応募があり、筆記試験や医学検査、
面接を経て絞られた10人の最終候補者の中に、江澤さんの姿がありました。
最後は隔離エリアで1週間の寝泊まりを実施し、さまざまな課題に取り組んだといいます。
最終試験では、どのようなことを行ったのですか?
「そこまでに残った10人が閉鎖空間に放り込まれ、全員で課題に取り組んだり、5人ごとの2チームに分かれて成果を競ったりとさまざまなテストをこなしました。就寝前にはコンピュータ画面に表れた文字をひたすら打ち続け、誤入力の割合がグラフ化されるストレステストが行われたり。 一番ユニークだったのは、レゴで作られた飛行物体のオブジェをひとりだけが観測し、戻ってから仲間に伝え、係を割り振りつつ同じものを量産するというもの。観測役を買って出た人が細部まで詳細に記憶し、みなに的 確に指示していたのを見て、なんてすごいんだと思ったのを覚えています。最後のメンバーは医師やパイロット、物理学者などまったく分野の異なる専門家の集まりだったのですが、全員で協力すると目標達成スピードがものすごく早いんですね。自分の能力を発揮しつつもお互いをフォローしあう。10人もいますから関係性はかなり複雑なのに、最良のバランスを成立できるんです。『能力のある人間が真価を発揮すれば、こんなことまでできるんだ!』と大きな発見がありました。有り体に言えば『協調性』でしょうけど、きっと『人間性』と呼ぶようなところも大きかったと思っています」
そもそも、宇宙を目指したのはなぜだったのですか?
「宇宙好きだった兄の影響もあり、私も幼い頃から宇宙に関心を持つようになりました。星新一さんのSF小説を読んだり、宇宙の絵を一緒に描い たり。テレビ番組の『なるほど!ザ・ワールド』も好きで、世界各地の秘 境をレポートする様子を見て、簡単にはたどり着けない場所を目指すことも楽しそうだなと感じました。とはいっても当時は『ささやかな夢』であり、宇宙飛行士を目指すと明言できる時代ではありませんでした……募集 があるとしたら職業を極めていなければいけませんので、今の産婦人科医という仕事をとにかく精進し博士号取得を目指しました」
すべてはつながっていたのですね。
「人生はすべて『meant to be』、なるようになるもので、すべてご縁なのかなと思っています。目の前のことに誠実であれば巡り会うべきものに 巡り会い、それと真摯に向き合えば道は拓けていくものだと。このときもそうでした。宇宙飛行士の募集が10年ぶりに開始されたとき、産婦人科の臨床医を続けながらまとめた論文がちょうどアクセプトされ、タイミングがよかったんですね。また、慶應大学病院で、日本人初の女性飛行士である向井千秋さんの夫である向井万起男先生の指導を受ける機会があり、『昨日ね、うちの奥さんが宇宙から帰ってきて』みたいな話を伺い、宇宙は決して想像上の夢ではない、今やっていることの先にあるんだというのを強烈に感じたんです」
それで宇宙飛行士の選抜試験に。
「なんでも挑戦してみようという性格になったのは、同じく産婦人科医だった父の影響も大きかったんです。とても忙しかったのに、時間を工面しては『ふかひれを食べに気仙沼まで行こう』と車を走らせたり私達家族にいろいろな実体験をさせてくれました。スコットランド人の私の夫とは歴史話で盛り上がるし、美術にも詳しくて、母に贈る宝石の品質を持参したルーペでチェックしたり。医師になれば、こういうふうになれるんだなと思って育ちました。私が宇宙飛行士にチャレンジする頃、父はがんになったのですけど、そのとき『実は僕も宇宙飛行士に憧れていたんだ』という話を打ち明けられ、同じ道を歩んでいたんだと実感しました。最後までサポートしてもらい、不屈の精神をもらえたと感じてます。その頃は1カ月のうち25日くらい当直で、産婦人科医として過酷な生活を続けていたのですけども、自分で限界を決めずに走れるところまで走ろうという決意していました」
人の生き方に大きな影響を与える産婦人科医という仕事
さまざまな縁とサポートを受けて挑戦した宇宙飛行士選抜試験。
唯一の女性候補であり、優秀な成績も収めていたことから
「合格間違いなし」との噂も立ちましたが、最後の最後で残念な結果に……。
しかし江澤さんは下を向くことなく、すぐに新しい挑戦へと歩み始めます。
ただ、結果は残念なものになってしまいました。
「はい。ものすごい喪失感がありました。ですが、私以外のファイナリスト全員もそうだと思いますけど、これで人生が狂ったというようなことはなく、むしろ大きな転機になりました。私はチャレンジャーな人で、それ までも『やりたいリスト』を書き出して勤務の合間に船舶や飛行機の免許を取得したり、ハープを習ったりしていたんです。また次のステップに進もうと奮起し、リストから『法律を勉強する』項目を選び出して2012年 に早稲田大学法学部に入学しました」
現役のお医者様なのに、さらに法律家にもなられるというのですね。法律を学ぼうと思われた理由はなんですか?
「長年患者さんを診察するなかで、法学的なアプローチがあればより適切な医療を提供できるのでは?と考えることがありました。たとえば無認可の薬剤の使用は保険適用外になり、資金に余裕のある人しか使えませんが、法学的な問題を早く解消すれば多くの方が使えるようになるかもしれません。命はみな平等に価値があるものですから。そういったことに、法律の知識を活かせると考えたのです。ただ学生生活は臨床を行いながらでしたし、ちょうどそのころに双子の子供も産まれまして……毛穴から脳みそが 出るかと思うくらいに大変でしたけど(笑)、卒業論文は早稲田大学法学 会学術賞を受賞するという結果を残すこともできました。真面目に取り組んでいれば、神様が見ていてくれるのか、必ず次につながるんだなと実感 しました。ほかにも、これまでに得たもののアウトプットとしてサプリメントの開発や医療情報を広げるNPO活動など様々な領域に取り組んでいまして、世の中に還元していけたらいいなと思っています」
おっしゃるとおりさまざまな分野にチャレンジされていますが、基盤である産婦人科医という仕事についてはどのようにお考えですか。
「お母さんの命と赤ちゃんの命を預かるという仕事ですから、緊張感がありますし、強いやりがいを感じています。それに産婦人科って、一番人の生き方に密接した科だと思うんですね。ある程度閉鎖された場ですから安心してお話をしていただけますし、それも10代の若い女の子から高齢者 の方々まで、さまざまな方の思想や生き方に触れられるんです。まさに私がそうですけど、いろいろな人との出会いや掛けてもらった言葉は、人生の大きな糧になります。私もそうした一人になりたいと願っています。それに法律やビジネスも手掛けていますけど、やはりこうした臨床経験があってこそ、さまざまな問題意識に気づけるもの。だからやっぱり産婦人科医が、私の活動の基本なんです」
モノは見かけではなく本質を重視する
さまざまな世界に挑戦し、自らの能力を磨き続けてきた江澤さん。
洋服やインテリアなどご自身の身近にある製品についても、
見かけではなく本質を重要視しているようです。
話は変わりますけども、洋服やインテリアなどにはどのようなこだわりをお持ちですか?
「それが、あまりこだわらない性格なんです。物欲もあまりなくて。バブルの頃、日本ではブランド物が人気だったりコレクターが登場したりしていましたけど、私はそのときカリフォルニアにいて、どんなお金持ちでもTシャツ短パンで『Hi!』という感じだったのを見ていたんですね。自分自身で勝負すればいいから、自分を飾る必要はない。そのスタイルを見てきたのが大きかったのかもしれません。あそこのブランドが知名度だから、今トレンドだから、といった理由でモノを買うことはほぼないですね」
見かけではなく、本質を重視されているんですね。
「はい。その意味では、私がキプリスのショルダーバッグや名刺ケースを使うようになったのは、中身の部分に共鳴したからだと思います。モノに私が合わせるというより、『自分のモノになってくれるためにこの商品が生まれてきてくれたんだな』というような感覚を大切にしているのですけど、そのフィーリングをものすごく感じさせてくれました。キプリスは知り合いから紹介してもらって知ったのですけど、モノづくりの姿勢やコンセプトを理解するほどにすごく感銘を受けまして。きちんとした考えのある、本物のブランドなんだとわかりました」
キプリスのどういったところが魅力に映りましたか?
「信念があるところでしょうか。時代の変化に対応することも大事ですけど、ブランドとしての根幹に揺るぎのない強さがあるんです。まさにこのバッグも、そうした信念を感じさせる出来。これを持つと嬉しくなるんですよね。いかにも大切ものが入ってそうな雰囲気があるし、細部まできちんと作られているのはさすがのメイド・イン・ジャパンですし。込められた信念が視覚だけでなく五感でも伝わってくるようで、本当にワクワクするんです。今では、このバッグの存在感に引きずられるようにして『仕事しなくちゃ!』という気になりますし、周りからも『江澤はいつもこのバッグとセット』というふうに認識されているんじゃないかな。持つことで背筋の伸びるバッグですね」
産婦人科医/医学博士/社会起業家/法学博士課程(医事法)/番組審議会議員
江澤佐知子 Sachiko Ezawa
東京都大島町出身。夫はスコットランド人、双子男児の母。2001年米国セネジェニクスアンチエイジング専門医取得。2005年スウェーデン王室よりアマランタ賞受勲。2008年医 学博士取得後、今までできなかった大好きなことを全部し ようと決意、船舶免許、パイロット免許を取得。2009年 NASA/JAXA宇宙飛行士選抜女性唯一のファイナリストに。同年スコットランド政府主催グローバルスコット会員授与。2010年成し遂げる女性の象徴ヴーヴ・クリコウーマン受賞。女性医師による社会貢献NPO医療情報広報局を設立。2012年には早稲田大学法学部に再入学し、医学博士取得の研究テーマを法律学の視点から研究。代わりに現在は、同大学法学博士課程で研究を続けている。現在も臨床医を主軸に、産業医、企業顧問、NPO活動、講演活動など幅広く活躍。チャレンジングな生き方で多くの女性を元気にしている。南流山レディスクリニック顧問。 TBS番組審議会議員。
Text : Hiroyuki Yokoyama
Edit : FIRST
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