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VOICE vol.4 | 北原照久さん
更新日時:2021/07/09
2021.7.9 Interview
テレビ番組『開運!なんでも鑑定団』の鑑定士として30年近くレギュラー出演し、
ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として世界的に知られている北原照久さん。
いつも前向きで夢を追い続ける姿勢が多くのファンを生み、
企業人からアーティストまで幅広い人脈を持つことでも有名です。
株式会社トーイズ代表取締役北原照久さん
そんな北原さんに招かれて伺ったのが、横須賀の相模湾に面した“白亜の邸宅”。昭和初期に旧竹田宮別邸として建造された建物には、1970年代のアンティーク家具と北原コレクションの一部がおかれ、魅力的な空間を生み出していました。
なぜ、ここまでモノにこだわるのか? どのような点を吟味しているのか?コレクターとしての矜持や喜びについて、話を聞きました。
情熱を抱き続ければ、いつか夢は叶う。
見渡す限りの水平線。500坪の敷地にプール付きゲストハウスと居住場所とする離れが建ち、
ボートの停泊場まであるという、まさに豪邸。
エントランスには、世界で7台しかないという映画『禁断の惑星』の
「ロビー・ザ・ロボット」原寸大人形が置かれ、取材陣を歓迎してくれていました。
ものすごい邸宅で、驚いてしまいました。
1997年に購入したときは塩害がかなり進んでいて、補修が大変でした。数年前にも台風被害で擁壁の一部が崩れてしまって。コンクリートで修繕すれば工期も早いしコストもかからないのだけど、それだと雰囲気が台無しになってしまうから、崩れた岩を海中から拾い出して復元しました。めげないんですよ、僕は。元通りにします。家が喜んでるのがわかるんです。そうすると家に招いたお客さんも喜んでくれるし、たくさんの人が来てくれるようになる。恩返しをしてくれる気がするんですよね。モノの恩返しです。
このご自宅は、どのような経緯で入手されたのですか?
僕はこれまで、人に夢を話すようにしてきました。『叶う』って『口』に『十』と書くから、十分なほど口にしてきたんです。
大きな夢だったのが、おもちゃの博物館の設立。お会いする人に片っ端から話をしていたら、あるとき電通の杉山恒太郎さんが『プロモーションビデオを作ってあげるよ』って言ってくれたんですね。
ビデオデッキが普及し始めたころで、僕のコレクションを使って『ティントイクラブ』という映像作品を作ってくれたんです。それを雑誌『ブルータス』が紹介すると一気に注目度が上がり、夢に大きく近づきました。
で、その『ブルータス』の同じ号に湘南不動産の特集ページもあって、この家のことが載っていたんですね。
僕は、ひと目見て『これだ!』と。ただ当時の販売価格は約8億円で、到底手が出なくて……でも、諦めることはなく、結局12年後に購入することができました。
『北原は医者の息子で金持ちだから』なんてウソを書かれたこともありましたけど、お金持ちだったら『ブリキのおもちゃ博物館』会社設立時に1500万円も借金しませんでしたよ。必死で工面したんです。
僕は設立から、10年間土日もなく無休で働きましたしね。それでも仕事が楽しかったから、全然疲れなかった。
夢を追い続けてきたわけですね。
僕は、自分が口に出した夢を全部実現しています。
『加山雄三さんに会いたい』
『1956年型のフォードのサンダーバードがほしい』
『おもちゃの博物館をしたい』
『吉永小百合さんに会いたい』という夢は、実現まで43年かかっています。
願いを口にしていればいつかは叶うんですよね。『お金がないからできない』なんていう人は、きっとお金があっても実現できないでしょうね。きっと、情熱や想いというもののほうが大事なんだと思います。
関心・感動・感謝が最良の巡り合わせを生む。
邸宅にはブリキのおもちゃや映画作品のフィギュア、現代アートなどが飾られ、
北原コレクションの一部を感じることができました。
全国のおもちゃ博物館や延床面積1200坪という巨大倉庫も合わせると、
そのコレクションの数は甚大な量に……。これほどの収集欲は、どのように生まれたのでしょうか。
北原さんがモノをコレクションしはじめる原点は、なんだったのでしょうか?
うちの実家はスキーやアイスホッケーの専門店で僕も手伝っていたんですが、学生運動の激化で大学が休講続きだったとき、父親に『せっかくだからスキーの勉強をしてこい』といわれ、オーストリアのインスブルックに1年滞在したんですね。
そこには、愛着のあるモノに囲まれて生活している人たちがいました。テーブルや時計、調理器具など、年代物ばかりで。『ひいおばあちゃんの代から使ってる』という鍋で作った料理が、本当においしいんですよ。そうやって所有している人もモノを自慢できるし、僕もおいしく食べられるし、みんながハッピーで。モノとの接し方に、カルチャーショックを受けたんですね。
そうして帰国した後のある日、ゴミ捨て場に置かれた柱時計を発見しまして。インスブルックの人たちだったら絶対に捨てないだろうなと思い、持ち帰って油をさしたら、動き出したんです。それが、僕のコレクションの第一号。自分でモノに命を吹き込んでいるようで、うれしい気持ちになったのを覚えています。
それで収集するようになられたのですね。
僕は、熱しやすく冷めにくい性格で、それから53年集めっぱなしです(笑)。コレクターって波があるといわれ、熱心に収集する時期とそうでない時期を繰り返すものなんですが、僕は波がなく、ずーっと気持ちが一直線。神様が『あなたはそういうものを残せ』との役割をくれたんじゃないかなと思うぐらい、ときめくんですよ。手に入れるとほんとにうれしいし、また次のターゲットを探しに行きたくなるんです。
次のターゲットは、どうやって見つけるのでしょうか。
モノの収集には情報が欠かせず、多くの人と交流を持つことが大切です。
僕が『ツキの十カ条』といっているもののうち、『関心をもつ』『感動する』『感謝する』の“3カン王”が特に大事で。いろいろなものに関心を持って、感動した心の動きを相手に伝え、そして感謝する。感謝があればモノを売り込んできた人も、気持ちがいいじゃないですか。それでまた情報をたくさんもらえるようになる。
人間って一人では生きていけないですから、どういう人達と関わっていくかはすごく大事なことですし、人から肯定的な評価を受けることが行動の原動力にもなります。
北原さんのコレクションも、多くの方から高い評価を集めています。
褒めてくれる人がいるとうれしいですよね。
僕もコレクションの魅力を積極的に伝えています。僕の口癖は『これ、いいでしょ』なんですよ。いいところを見つけるということ。そう言い続けていると、モノのほうも良さを引き出してくれるんです。
気配りが行き届いた“メイドインジャパン”。
とりわけ、北原コレクションの中でも群を抜いているのがブリキのおもちゃ。
20世紀前中期に世界中で人気となった製品は、
いまやコレクターズアイテムとしてその存在価値を見直されています。
北原さんは、ブリキのおもちゃのどこに魅せられたのでしょうか。
本来、遊び尽くしたら捨てられてしまうモノですけど、ブリキのおもちゃはつくりの良さや職人のこだわりを感じるんですよね。大量生産品だけどアート作品としての側面も持ち合わせていて、独自の魅力がある。
もちろんそう思っているのは僕だけじゃなく、サザビーズやクリスティーズのオークションでは何百万円で取引される世界ですから。なかでも評価されているのが、日本で作られたブリキのおもちゃです。
日本製が、世界で高く評価されているのですね。
はい。戦後、雑貨部門の輸出売上ではおもちゃが1位ですからね、外貨を獲得した立役者なんですよ。
日本人は手先が器用で、細部へのこだわりが深い。職人気質というんですかね。子供向けのおもちゃでも、いいものを作ろうという強い想いを感じるんです。
やはり、そういった想いは伝わるのですね。
そうですね。僕が名刺入れで使わせてもらっているキプリスの製品も、メイドインジャパンとしての職人のこだわりをよく感じます。
素材も上質で手触りがいいし、使い心地も快適ですね。いいモノって、そうやって触ったときにわかるんですよ。それに縫い目がとてもキレイ。特に身につける商品に関しては、こういうちょっとしたところが意外と大事ですから。
万年筆や腕時計もそうですよね。そういう気配りが行き届いているのはうれしいですし、名刺入れって人との新たな出会いに欠かせない道具ですから、きっと『北原さん、おしゃれだな』と思ってくれてるんじゃないかな。人は見てないようで、意外と見ているからね。
多くの夢を叶えられた北原さんですが、次の夢は何ですか?
僕は宇宙にいってみたいし、巨大なメガミュージアムもつくりたい。これからも想いを人に伝えていきたいと思っています。
株式会社トーイズ代表取締役
北原照久 Teruhisa Kitahara
1948年東京生まれ。ブリキのおもちゃコレクターの世界的第一人者。1986年4月に横浜山手に「ブリキのおもちゃ博物館」を開き、以後全国各地でも開館。テレビ東京『開運!なんでも鑑定団』に鑑定士として出演するほか、ラジオ、CM、講演会等などで活躍中。著書多数。
Text : Hiroyuki Yokoyama
Edit : FIRST
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