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Voice vol.6 | 干場義雅さん
更新日時:2021/10/06
2021.10.06 Interview
ファッションディレクターや講談社『FORZA STYLE』編集長として、
日本のファッションシーンの本質を問い続けてきた干場義雅さん。
わかりやすい服装術と現実的な提案は多くの男性の心を捉え、
“ファッションの師匠”と慕うファンは増えるばかりです。
ファッションディレクター/『FORZA STYLE』(講談社)編集長干場義雅さん
干場さんが追求する服装術の核心は何なのか? また、これからのファッションはどうなっていくのか?
干場さんへのインタビューを通じて、本当に大切にすべき事柄が見えてきました。
『いいモノを長く使う』の哲学で本当にいいモノを厳選すべき
仕立てたオーダースーツにアルコディオのタブカラーシャツ、
ジョンロブのストレートチップ、ヴァシュロン・コンスタンタンのムーンフェイズウォッチ。
インタビューの場に現れた干場さんの装いは、まさに大人の男性が目指すべき理想形でした。
思わず見惚れてしまうような装いですね。
「仕事のスタイルは、基本いつも同じです。同じスタイルのまま、スーツの質を上げたり革小物を変えたり、歳を重ねるごとに少しずつ磨き上げていくのが僕のスタイルの特徴です。かといって、次々に新しいものを買うようなことはしません。このスーツは10 年以上着ていますし、コートなども20年以上愛用しているものもあります」
『ファッションに精通している』というと、新しいものを次々に手にされているのだと想像してしまいます。
「大切なのは自分のスタイルを築き上げ、いいモノを長く使うことであり、新しいから悪いわけでも、その逆でもありません。ただ、いわゆる『流行』のスタイルが好きではないんです。文字通り『流されて行く』のでは、いつまで経っても自分のスタイルを築き上げられませんから。もちろん服装はコミュニケーションツールでもあり、相手への配慮も求められます。世間一般では『Time=いつ』『Place=どこで』『Occasion=どんな場面で』で『TPO』といわれますが、私はそこに『Person=誰と』『Style=どんなスタイルで』を加えた『TPPOS』の重要性を説いています。そこまで注意深く読み取ることができれば相手に失礼な印象を与えませんし、信頼感も醸成できるでしょう」
「TPPOS」という5つの視点が必要なのですね。
「はい。さらには、『干場さんてこういう人だよね』、『いつもこういう装いだよね』という、常に同じスタイルであるという安定感のようなものがあるといいですよね。いつもサングラスを掛けているタモリさんや、印象的な髪型をした黒柳徹子さんのように、アイコニックなポイントを設けられるといいでしょう。もちろん、無理してキャラ付けしてもいずれ破綻してしまいますから、そういう意味でも自分のスタイルを築き上げていくことが大切だと思います」
流行というと昨今ではサステナブルな意識が高まっていますけども、どう思われますか?
「世界のファッションリーダーとして名高い英国のチャールズ皇太子は、実はサステナビリティに対して、世界の誰よりも前向きな考え方を持たれています。『Buy Once, Buy Well』が信条で、コートも革靴もツギハギに補修しながら何十年も使い続けているのに、業界関係者を刺激する美しい着こなしをされています。そこまでモノを大事にしているのは、本当にすごいなと思います。これまでのファッション業界に存在していた『安く手に入れてはすぐに使い捨てる』行為は、人間関係と同じで僕は好きではありませんし、これからも続くかどうか疑問です。それに多くの日本人は、服を持ちすぎなのではないかと考えています。最近『これだけでいい男の服』という自著を出したのですけど、本当に価値があるモノ、自分の心が動かされるモノだけを厳選すべきだと思います」
ファッションは中身を鍛え上げるツールにもなる。
ファッション誌の編集を経て、現在ではファッションブランドの開発やディレクター事業、
VIP向けのパーソナルスタイリング、タレント業までこなす干場さん。
雑誌からテレビ、ラジオ、インターネットなど、活躍の場も広がり続けています。
そもそも、干場さんはいつごろからファッションに興味を持たれたのですか?
「「物心ついたときからファッションが好きでした。祖父も父もテーラーだったので、洋服に囲まれた環境が居心地よかったんですよね。それと一番の大親友、宮下貴裕君の影響も大きかった。中学時代の友人で、後にパリコレのデザイナーになったのですけど、めちゃくちゃオシャレで。彼の真似をしてモードやストリートのアイテムを着てみても僕は全然ダメだったのですが、『干場くんはトラッドとか上品な格好が似合うよね』と彼に言われて、自分が目指すべきスタイルに気づいたり。また、彼と一緒に表参道を歩いていたら雑誌『ポパイ』のファッションスナップで声をかけられ、掲載してもらったこともありました。実際にこの業界に飛び込んだのは、18歳のときです。高校卒業後に浪人生となったものの、親からもらった大学の受験代をすべて洋服代と遊び代に費やすようなひどい生活をしていまして(笑)。さすがに自分で働こうと奮起し、ビームスでアルバイトをはじめたんです」
幼少期からファッションが身近にあったのですね。
「学生時代は特に。高校卒業後もよくつるんでいたのですけど、8人中7人がキムタクぐらいに格好よくて、僕だけモテない(笑)。だから『どうしたらモテるんだろう』、『格好よくなれるんだろう』と必死になりました。東京中の古着屋さんを回っては60年代特有の素材だったり70 年代に流行した襟型だったりとさまざまな知識を学び、ファッション誌は『ポパイ』や『メンズノンノ』、『チェックメイト』に『ホットドックプレス』など有名どころから『ヴォーグ』『エスクァイア』『GQ』など海外誌も取り寄せて、総なめしていましたね。もちろんビームスのアルバイト時代も貴重で、店舗での接客はもちろん、スタッフルームにゴロゴロ転がっていていた洋書を読み漁っていたのもいい勉強になりました」
貪欲に知識を吸収されていったのですね。その後は雑誌編集の仕事に就かれ、現在では多方面で活躍されていらっしゃいますが、この業界の魅力は何ですか?
「人をいっそうステキにさせ、よろこんでもらえるところでしょうか。『にじいろジーン』というテレビ番組の企画で一般家庭のお父さんのスタイリングを11 年間やらせてもらってきたのですが、格好良くしてあげるとものすごく感激されるんです。お母さんは惚れ直し、それを見たお子さんもうれしくなる。『ファッションの力ってすごいな』と思い知らされました。ただ、見かけを良くすると、今度は中身を問われるんです。『にじいろジーン』の企画でも、服装だけでなく髪型や姿勢、話し方、歩き方まで徹底指導しています。中身が伴わないと『見かけだけなの?』と落胆され、むしろ格好悪くなってしまいますから、見た目がよくなると、中身も磨きたくなる。中と外を相互に高め合うという作用がファッションの魅力だと思います」
どちらか一方だけではダメだと。
「そうですね。その上で重要なのが、お金でもセンスでもなく、知識です。知識がなければモノの本質がわからず、本当のカッコよさは実現できない。他人のファッションを学んだり、本を読んだり、人の話を聞いたりして、知識を得る努力が欠かせません。『服育』という言葉もありますけど、やっぱりファッションも教養なんですね」
カッコよさは学べる、と。
「『おしゃれになりたい』、『センスよくなりたい』といいながら、勉強が不足している人をよく見ます。新型コロナのせいで海外に行けず、本場のファッションスタイルを学べる機会がなくなってしまっているのは不幸なことだとは思いますけどね。洋服はやはり『洋の服』で、ヨーロッパの文化や歴史を知る必要がありますから。ただ、それでも雑誌や書籍はたくさんありますし、YouTube など短時間で効率的にファッションを学べるツールは増えていますから、それらを積極的に参考にしてほしいと思います」
道具としての実用性が革小物の本質
「いいモノを長く使う」は服飾品のみならず、
財布や名刺ケースといった服飾雑貨にも当てはまるもの。
「革小物とどのように接するのが正解なのか?」と干場さんに尋ねてみたところ、
「道具としての本質を理解する」ことだと答えてくれました。
男性が身につけるものとして革小物が欠かせません。革小物の「いいモノ」は何だと思われますか?
「まずは、その革小物が自分にとって必要なモノであることが重要です。つまり、『革小物を持つ』だけでなく、自分らしいライフスタイルを過ごすために、『この革小物が必要である』かどうか。メンズファッションは『スポーツ』『ワーク』『ミリタリー』の3 要素から成り立ち、形状記憶性に優れたコードバンが拳銃のホルスターに使われたり、江戸時代には煙草を持ち歩くために袋状のシカ革が用いられたりと、いずれも機能性や実用性に立脚して進化してきました。道具として実用的であることに本質があると思いますから、自分にとって必要なものかどうか、じっくり吟味すべきです。そのうえで、革の知識もあるといい。どういうふうになめされてるのか、どの程度の厚みがいいのか、動物ごとに質感や表情はどのように変わるのか……実際に愛用してみての経験も含め、学び続けていく姿勢が大事だと思います」
革製品の良さはどこにあるとお考えですか?
「やはり、経年変化によって表情に味わいが出るということと、馴染んで使いやすくなることですね。ベルトも財布も、しだいにいい具合に変化していく。そこが一番の魅力だと思います」
実際に、干場さんはどのような革製品を使われているのですか?
「いいと思ったモノだけを手に入れていますので、産地やブランドはバラバラです。キプリスのアイテムもありまして、財布と名刺ケースを使っています。『極』という黒桟革を使ったシリーズで、戦国時代の武具や甲冑に使用されていた革素材だというストーリーや、日本伝統の本漆の美しさを引き出した仕様に惚れました。黒×赤というカラーも、黒澤映画のようでいいですよね。海外の友人に聞かれたときに『これって武士の甲冑の革なんだよ』なんて話ができるのもいいところ。まだ使って間もないのですが、これからどんどん味わいが増していくのが楽しみです」
キプリスのブランドに対してどのような印象をお持ちですか?
「ものづくりの丁寧さに感動しました。『日本製』というだけでも信頼が高まるものですけど、職人さんの心意気や技術力の高さがずば抜けていますから。世界に誇れるブランドだと思います。僕の手元にある名刺入れひとつ取ってみても、日本人のきめ細やかな感性や丁寧さが伝わってくるんです。いつかは、これからのニューノーマル時代に最適な革小物など、一緒にモノづくりをしてみたいですね」
ファッションディレクター/『FORZA STYLE』(講談社)編集長
干場義雅 Yoshimasa Hoshiba
1973 年東京生まれ。BEAMS で販売を体験後、出版社に勤務。『MA-1』『モノ・マガジン』『エスクァイア日本版』などの編集を経て『LEON』創刊に参画し、ちょい不良(ワル)ブームを生み出す。2010 年に独立し、株式会社スタイルクリニックを設立。フジテレビ系『にじいろジーン』、テレビ朝日系『グッド!モーニング』、日本テレビ系『ヒルナンデス!』などテレビ番組のファッションコーナーを担当。TOKYO FMのラジオ番組『SEIKOASTRON presents World Cruise』のメインパーソナリティや、YouTube『B.R.CHANNEL Fashion Collage』で講師を勤める。オンラインセレクトショップ『MINIMAL WARDROBE』『SIMPLE-LIFE』も手掛ける。『これだけでいい男の服』(ダイヤモンド社)など著書多数。
Text : Hiroyuki Yokoyama
Edit : FIRST
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